債務整理で過払い金発生!

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主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

被告は,原告に対し,92万6587円及び内金92万2539円に対する平成20年12月29日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

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第2 事案の概要

1 本件は,貸金業者である被告とその利用者である原告との間の消費貸借契約上の取引につき,被告から開示された昭和63年5月12日からの取引履歴を利息制限法の制限利率で引き直し計算すると過払い金92万2539円が発生し,被告は,これを法律上の原因なく利得し,かつ利得について悪意の受益者であるとして,その利息4048円及び前記過払い金の不当利得の返還請求をした事案である。
2 前提となる事実
(1) 被告は,登録を受けた貸金業者であり,原告は,一般市民であって被告の金銭消費貸借取引の利用者である。
(2) 原告・被告間の金銭消費貸借契約に基づく取引については,別紙計算書1のとおり「年月日」欄記載, の年月日に,原告は,被告から「借入金額」欄記載の金員を借入れ,被告に対し,「弁済額」欄記載の金員の弁済をした(以下「本件取引」という。)(以上,甲1)。
3 争点
(1) 本件取引は一連の取引か。
(被告)
本件取引は,昭和63年5月12日から平成10年3月31日までの取引(以下「第1取引」という。)と平成20年1月28日から平成20年12月28日までの取引(以下「第2取引」という。)の2個の取引からなっており,第1取引は,借入限度額50万円,約定利率年29.2パーセント,会員番号xxxx−xxxxxであり,第2取引は,借入限度額50万円,約定利率年17.80パーセント,会員番号yyyy−yyyyyであって,両者は別個の取引である。
(原告)
本件取引は反覆継続的な金銭消費貸借取引であり,昭和63年5月12日に開始し,平成20年12月28日に終了した一個の一連の取引である。
(2) 被告は,悪意の受益者か。
(被告)
被告は,みなし弁済が成立することを当然の前提として,原告から返済をうけており,原告に対しては,すべての取引において,来店時若しくは被告のATMから明細を発行していた。被告としては,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号による改正前の法律。以下,「貸金業法」という。)17条書面及び18条書面の記載の不備が指摘されるようになって,法を遵守し業務を遂行,継続するために,その時々の行政指導に基づき,それらの書面を改訂し,債務者である原告に交付していた。本件取引当時において,貸金業法43条1項所定の要件について,平成18年1月13日の最高裁判決が出るまで,下級審において支配的見解が確立していた訳ではなく,原告からの返済の都度,被告がみなし弁済の適用があると認識していたことは明らかである。従って,被告は悪意の受益者とはいえない。
(原告)
被告は,登録を受けた貸金業者であり,利息制限法の制限利率を超える利息であることを知りながら,利息を受領していたのであるから,悪意の受益者である。
(3) 消滅時効の成否
(被告)
原告の被告に対する第1取引の不当利得返還請求権については,取引終了日(平成10年3月31日)から本件訴え提起日である平成21年6月4日までに10年を経過しているので,時効消滅した。被告は,平成21年9月9日の第2回口頭弁論期日において,上記時効を援用するとの意思表示をした。
(原告)
債権は10年間「行使しないとき」に消滅するものであり(民法167条1項「行使しない」ことを不), 利益に評価するためには「行使できること」が必要であり,「行使できる」というためには,自らが当該債権を有して行使できることを「知っていること」が必要であるところ,平成21年7月10日最高裁第三小法廷判決では,期限の利益喪失特約下で利息制限法の制限超過利息を支払った場合に任意に支払ったということはできないとした平成18年1月13日最高裁小法廷判決の言い渡し以前に支払いを受領した場合とその後とで,貸金業者である債権者の悪意の推定に関して差異を認めている。
この論理を反面から考えれば,過払い金返還請求権について,その返還を請求できることを債権者が知ったものと推定できるか否かについても同様の基準によって区別すべきである。
それによれば,特段の事情がない限り,上記平成18年判決の言渡日までは,債権者は,過払い金の不当利得返還請求権を自らが有するものとは知らなかったものと推定すべきであり,それまでの間,過払い金の不当利得債権の消滅時効は進行しなかったものと解すべきである。
(4) 相殺の可否
(原告)
仮に被告の主張のように消滅時効が成立するとしても,原告は,第1取引の不当利得返還請求権を自働債権として,第2取引中,被告の原告に対する平成20年1月28日の30万円,同年1月31日の5万円,同年2月3日の15万円の合計50万円の貸付債権を受働債権として,第2回口頭弁論期日(平成21年9月9日)に対当額で相殺する。なお,弁済充当と相殺充当とは,基本的に同一法理に帰するので,そのことを判例上明確にすることが本件訴訟の副次的目的である。
(被告)
リボルビング契約にあっては,個々の貸付けに対応して弁済をおこなうものではなく,全体としての貸付けに対し,弁済をおこなうことが予定されているのであるから,過払い金返還請求権を自働債権とし,リボルビング契約の個々の貸付けを取り出して,それを受働債権として相殺を認めるのは相当ではない。
それを認めると相殺の遡求効により,相殺適状以後の弁済等を覆滅することになり,法律関係を複雑にする。

第3 争点等に対する判断

1 争点(1)(本件取引は一連の取引か。)について
原告は,本件取引が一連の取引である旨主張し,被告は,本件取引が2個の取引により構成される旨主張するので,以下,検討する。
同一の貸主と借主との間で継続的に貸付と返済が繰返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払い金が発生するに至ったが,その後に両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合に,両者の契約に基づく取引が一連のものか,個別の取引であるかについては,第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,判断するのが相当である(平成20年1月18日最高裁平成20年(受)第2268号判決。)これを本件についてみるに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,第1取引及び第2取引の基本契約とも,原告・被告間のカードを利用したリボルビング方式による契約であることが認められ,それによると,一応,一連の取引であるとも考えられる。
しかしながら,証拠によれば,第1取引は,昭和63年5月12日に原告が被告から50万円を借入れ,開始し,平成10年3月31日,原告が被告に7000円を返済し,一旦,そこで取引は終了した。その後,第2契約は,平成20年1月28日に原告が被告から30万円を借入れて第2取引が始まっており,その間約9年10か月の空白期間があること(甲1),第1取引の会員番号(xxxx−xxxxx)と第2取引での会員番号(yyyy−yyyyy)を異にすること,第2取引の開始に際し,原告は,被告から第1取引とは,別個のカードの発行を受け,取引をしていること(乙2)からすると,両者の契約は,一連のものではなく別個の取引であるものと解される。
2 争点(2)(被告は悪意の受益者か。)について
貸金業者が利息制限法を超える利息を有効な弁済として受領したが,その受領につき,貸金業法43条1項が適用が認められないときは,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつそのような認識を有するに至ったことがやむをえないといえる特段の事情がある場合でない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払い金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである(最高裁平成19年7月13日平成17年(受)1970号判決)。これを本件についてみるに,被告は,貸金業法43条1項みなし弁済について,何ら立証しようとせず,本件取引について,みなし弁済が成立し,成立することを信じて取引をしたのであるから悪意の受益者とはいえない旨主張するが,それだけでは特段の事情があるとはいえないのであって,被告は,法律上の原因がないことを知りながら過払い金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推認され,過払い金を取得した時から悪意の受益者として,利息を付して原告に返還する義務を負うこととなる。
3 争点(3)(消滅時効の成否)について
(1) 過払い金充当合意を含む基本契約に基づく継続的金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払い金返還請求権の消滅時効は,過払い金返還請求権の行使についての当事者間の合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である(平成21年1月22日最高裁平成20年(受)第468号判決)。これを本件についてみるに,証拠によれば,別紙計算書1のとおり,第1取引の終了時点(平成10年3月31日)で過払い金82万0246円及びその未収利息合計5万1795円として確定したことが認められる。@原告が平成21年6月4日に当裁判所に訴えを提起したこと,A被告が平成21年9月9日(第2回口頭弁論期日)において,第1取引の過払い金債務の消滅時効を援用したことについては,当裁判所に顕著な事実である。原告・被告間に前記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
以上の事実によると,消滅時効は第1取引の終了した平成10年3月31日から進行し,本件の訴え提起までに10年を経過することにより,第1取引の上記過払い金及び利息については,時効により消滅したものと解される。
(2) 原告は,第1取引の過払い金の発生を知ることがないので,消滅時効が進行しないことを最高裁平成21年7月10日判決を援用して主張する。
しかしながら,不当利得返還請求権は,履行期の定めのない債権であって,その消滅時効は,法律上の障害がない限り,権利者が権利の存在やその行使の可能性を知らない場合であっても,その成立したときから進行するものと解される。よって,それと見解を異にする原告の主張は失当である。
4 争点(4)(相殺の可否)について
原告は,第1取引の過払い金返還請求権(以下,「甲債権」という。)を自働債権として,第2取引の被告の原告に対する平成20年1月28日の30万円,同年1月31日の5万円及び同年2月3日の15万円の3口合計50万円の貸金債権(以下,「乙債権」という。)を受働債権として,相殺(民法508条)を主張をする。確かに,時効により消滅した甲債権を自働債権とし,同債権の消滅時効が完成する前に発生した乙債権を受働債権として,民法508条の相殺することが可能なようにもみえる。
しかしながら,以下の理由から,原告のなした相殺の意思表示は不適法なものであって,認められないものと解する。
(1) 相殺の要件の一つとして,対立する双方の債権が弁済期にあることが必要とされているところ,本件にあっては,原告の主張する相殺適状時である平成20年1月28日,同月31日,同年2月3日において,甲債権については,原告は,被告に請求していないので履行期にない。
乙債権については,@リボルビング方式の契約により,第2取引途中において発生したものであり,第2取引が終了するまでの間,原告・被告間では,貸付け及び返済が繰り返され,常に変動していくものであること,Aリボルビング方式による契約の弁済期は,取引途中にあっては,債権者の利益(利息の発生)のためにも存在しており,債務者が一方的に期限の利益を放棄することは許されないこと,からすると,原告の主張する日をもって,乙債権の弁済期が当然に到来しているものとは解することはできない。
よって,甲債権と乙債権とが相殺適状にあるとはいえない。
(2) 相殺の要件として,対立する債権の間に相殺適状があること及び相殺適状は,相殺の意思表示がされたときにも現存することを要するのであって,いったん相殺適状が生じていたとしても,相殺の意思表示がされる前に一方の債権が弁済等により消滅していた場合には,相殺は許されないものと解される(最高裁昭和54年7月10日同53年(オ)第547号判決)。
本件にあっては,原告は,甲債権と乙債権が相殺適状にあった旨主張するが,@乙債権は,リボルビング方式の契約により発生したものであり,同債権発生後,原告・被告間では貸付け及び返済が繰返され,取引残高は常に変動し,第2取引の終了した平成20年12月28日に至って,最終的に債権が確定するものであること,A第2取引が終了時点では,甲債権は既に時効により消滅していることからすると,第2取引終了時点において,甲債権と乙債権とは相殺適状にはなく,同様に,原告の相殺の意思表示をした時点においても,両債権は相殺適状にはなく,相殺は認められないことになる。
(3) 民法508条が時効で消滅した自働債権と対立する受働債権との間で相殺を認めるのは,相殺適状時に対立する両債権が差引決済されたものとする当事者間の信頼を保護しようとするものであるところ,本件にあっては,乙債権はリボルビング形式に基づいて発生したものであり,その当時,一見,甲債権と乙債権とは対立状態にあったとしても,そのことから当然に,差引決済されるとの信頼が当事者間に生じたものと解することはできない。
(4) 原告の主張するような相殺を認めることは,乙債権発生以降第2取引終了時まで原告・被告間で繰り返された返済,貸付け及び利息の発生が,相殺の遡求効により全て覆滅することになり,法律関係が極めて錯綜し,法的安定性を欠くことになる。
5 以上によれば,本件取引のうち,第1取引は消滅時効による消滅しており,第2取引について,別紙計算書2のとおり,被告は,原告に対し,未だ46万5819円の貸金債権を有していることになり,原告の本件不当利得返還請求は,理由がないことに帰するので,請求を棄却し,主文のとおりの判決をする。

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